リクナビ、スーモ、じゃらん、ホットペッパー…etc。
わたしたちが生活するなかで知らぬまに使っている、そんなサービス(情報)を提供している会社が㈱リクルートです。
そのリクルートを創業した人が江副浩正。
「情報」に着目し、商売にかえた天才起業家です。
マジですごい。
でも、すごいのはわかるけど、いったい江副氏ってどんな人だったの?
そんなきっかけで、ノンフィクションの人物伝『江副浩正』を読んでみたんですが、めっちゃおもしろかったです。
江副氏はめっちゃ賢いけど、「子供かっ!」ってくらい負けず嫌いで、
しかも最後は破滅的に転落していくからです。
500ページくらいの分厚い本にもかかわらず、展開が気になって速攻で読破しました。
というわけで、本記事では『江副浩正』を読んでわかったリクルート創業者の特徴と名言を紹介します。
『江副浩正』とは一体どんな人だったのか
本書はリクルートを創業した江副浩正氏の一生を描いたノンフィクションで、
- 青少年時代
- 東京大学時代(在学中に起業)
- リクルートの成長過程
- リクルート事件(政治家への贈収賄事件)
- afterリクルート(リクルートの経営権譲渡、起業による再出発、死亡)
を描いてますが、もっとも印象に残ったのは江副氏のどぎついキャラクターです。
良いところ・悪いところ含め、あますことなく書かれてますが、
一番興味をもったのが目のつけどころです。
サッカーで例えるなら、フィールド全体がよく見えてて、どこのゾーンにパスするといいかわかっているタイプで、
着眼点がすごくいいんです。もちろん、全体をよく観察しています。
江副氏は高校で学んだドイツ語が図抜けて優秀だったんですが、
受験のときには過去問題集の過去問題ではなく受験概要を読みこんで、ドイツ語で受験できる大学をリサーチ。
英語受験なら手の届かない東大の合格をしっかり勝ち取ります。
東大では学生新聞部に入部します。
ある日、新聞に掲載する広告をどう獲得するか考えていたときに、先輩から何気なくアドバイスをもらいます。
世の中の動きのなかに広告をとるヒントが潜んでいないか。
新聞をもっと読め。それも下から読むんだ。
このアドバイスから、
- 広告と記事を連動させると新聞の売れ行きがよくなる
- 広告をみればトレンドと経済規模がわかる
という構造に気づき、バンバン広告を取ってきます。
そして、最終的には求人広告を使った情報誌というスキームを発案し、リクルートの基幹事業にしていきます。
当時の就活は学校推薦や縁故採用が多く、学生が企業の情報を収集して選ぶ手段がない時代であり、
価値のある情報が載った冊子が無料で手に入るビジネスモデルがない時代でした。
リクルートの就職情報誌はまさにイノベーションだったのでした。
情報は商売になる(しかも在庫なしで粗利益率が高い)、ということに気づいた江副氏はこのスキームを横展開したり、
縦や斜めにも広げていきました。
と、天才的能力を発揮している江副氏ですが、自分の領域を侵されそうになったときの対応が実にクレイジーです。
老舗出版社のダイヤモンド社が就職情報誌に参入するという情報をキャッチしたら、
ダイヤモンド社の社長のところに行って、
「発行をやめていただきたい」
と無茶なお願いをするし、それが無理とわかれば急に戦闘態勢に入ります。
この分野では、ナンバーツーになることは死を意味する。リクルートを潰しにくる存在の前では、相手を完膚なきまで打倒するまで戦う。これは戦争です。
打倒D社作戦開始。それは攻めと守りのバランス経営。同業者はすべてライバル。ライバルであれば、食うか食われるかしかありません。だから徹底して戦うのです
社内報「週刊リクルート」より
そして、こういった危機を乗り越えた江副氏のマネジメント手法はさらに個性的になり、
- 失敗してもいいからとにかくスピード重視
- 新規事業は若手を起用(全員未経験なら新人を実践で鍛える)
- 注力事業は会社の精鋭を異動させてオールスターズで推進
というとんでもない攻め方で事業を拡大させていきます。
ところで、
ユニークだなと思ったのが、江副氏って自分の身の回りにある人・コトからビジネスを形成していくんですよね。
大学新聞で学んだ広告営業をビジネスにしたり、
情報誌がおいしいと気づけばライフプランで関わることを全部情報誌にしたり、
東大の知り合い(森ビル社長の息子)に森ビルの屋上の掘立小屋を格安でオフィスにさせてもらったり、
自分が所属している東大文学部教育心理の先輩(教員)にお願いして採用の適性検査テストを格安で開発してもらったり(でも高額で販売)、
東大の同級生(長谷工の社長の娘婿)にノウハウをもらって超有利に不動産事業に参入したり…etc。
いやね、人脈を生かす江副氏はもちろんすごいんですが、そもそも東大の人脈ヤバすぎでしょ。
と、アゲアゲの江副氏ですが、
リクルート事件(政治家等への贈収賄事件)以降の転落の仕方も規格外です。
まず、創業者として持っていたリクルートの未公開株をダイエーの中内功氏に売って経営権を失うことになりますが、
その理由が株の信用取引で150億円の損失をだしちゃって、自己破産をふせぐためですからね。
江副の資金を「江副ダラー」、そして仕掛けるそれは「江副株」とひそかに呼ばれた。しかも、江副がのめりこんだのは、「売り」「買い」の仕手戦にあって、さすが兜町の強者でも危険すぎてほとんど手を出さない「売り」から入る極めて特殊な手法だった。
江副氏は厳格な父親の死後、解放されたかのように投機中毒になってしまうんですが、
もう次の引用なんて、完全に逝っちゃってます。
ボストンバッグから「会社四季報」新春号を取り出し、開く。この号は重要だ。三月期決算企業の中間決算情報と当期の業績計画が同時に掲載されている。その二つを並べ比べると、数字があまりにも乖離している企業が必ず見つかる。その裏にはきっとなにかある。それを「会社四季報」から読み解いていくのだ。……
「会社四季報」の数字を読み込み、だれも目をつけない事業の萌芽や、破たんにいち早く注目する。そして、事業家江副浩正の直感で投機銘柄を割り出し、思い切り仕掛けるのだ。それが株の醍醐味。なのに、コンピュータに判断をまかせるなど信じられない。
そして、もう1つは不動産事業への固執です。
リクルートを去った江副氏は、お得意の「情報」ではなく、
思い付きのターゲット設定で自己満足な不動産事業を立ち上げては、ことごとく失敗していきます。
もう読んでる側としては、なぜこんな不毛なことをしているのか意味不明なんですが、
おそらくバブル期にリクルートの不動産事業で大儲けした刺激がずっと忘れられなくて、固執したんだろうなと考えます。
そんな感じで、
情報産業のガリバーとして巨大化していくリクルートと、
対照的に転がり落ちていく元カリスマ・江副氏の差がハンパなくて、
と気になって読む手がとまりません。
どこが人生のターニングポイントだったのか、
そして江副氏はどのように気持ちが変化していったのか、
くわしくは本書を読んでみてください。
『江副浩正』の名言まとめ
おまけとして人物伝『江副浩正』に掲載されていた名言の一部を紹介します!
『誰もしていないことをする主義』
リクルートは、これまでに社会になかったサービスを提供して時代の要請に応え、同時に高収入を上げていく。既存の分野に進出するときは、別の手法での事業展開に限定し、他社のあとを単純に追う事業展開はしない。『誰もしていないことをする主義』だから、リクルートは隙間産業といわれる。だが、それを継続していって社会に受け入れられれば、やがて産業として市民権を得る
「リクルートの経営理念とモットー十章」より
江副浩正の思想の根幹であり、リクルートの原点です。
『分からないことはお客様に聞く主義』
これまで誰も手がけなかったサービスを提供していく事業には、先生が必要。その先生は、新しいお客様や潜在的なお客様である。お客様に教えを乞いつつ、創意工夫を重ね、仕事の改善を継続的に続けていくことが重要。そこで大切なことは、自分の意見を持ってお客様の意見を聞く姿勢。自分の意見を持ってお客様に聞かなければ、お客様の本当の声を聞き取ることはできない。こちらの考えとお客様との意見の間に本当の答えがある。
「リクルートの経営理念とモットー十章」より
新しい事業の答えは、いつも得意先の要望のなかにあると考えて書いたようです。
『自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ』
人は、上司に恵まれていない、チャンスに恵まれていないと思いがちである。だが、自らの業績は上司の指示によるものではない。チャンスもまた自らつかむものである。業績への機会はすべての人に平等である。高い業績は、それを達成する執着心をその人が持ち続けるか否かにかかっている。業績達成への能力は、上司に育ててもらうのではなく、自らの努力、つまり読書やお客様と周囲の人から聞く話などによって自らを育てていくものである。自らが成長できるか否かは、自己管理できるか否かにかかって大きい
「リクルートの経営理念とモットー十章」より
もっとも有名な江副語録です。
このフレーズは大好きなドラッカーの言葉、
「企業は機会を生かす……企業の成果は、『問題』を解決することによってではなく、『機会』を開発することによって得られる」
と、東大教育心理で学んだC.ロジャーズの言葉、
「人間はだれしも成長しようとする本質をもつ。従って人は後年の変わろうとする本人の努力により、その人格を変えることができる」
をヒントに掘り下げて生み出したようです。
人なんてなかなか見ぬけないですよ。ただ一つ僕が見るのは、その人に悔し涙を流した経験があるかどうかだけかな。
採用で江副氏が重視するポイントがこれ。
悔しい経験がある人の潜在能力とねばり強さに価値を置いていました。
早く出たがらない。絶好の勉強のときと思うこと。悲観したり怒ったりしてもどうもならない。ここにいる間を天賦の休憩と考えること。つらい環境は自分で克服しなければならない。いまがよい環境なのだと思う勇気を持つこと
リクルート事件で拘置所に入り、非人間的な仕打ちをうけて精神崩壊しかけるなか、
「戦おう。彼らの取り調べがどんなに理不尽で、国家権力の笠に着たものかを、克明に残し、いつか反撃に出よう」
と思って記録用に買ったノートに書いた自分への戒めです。
『江副浩正』を読み終えて
東京大学が生んだ最大のベンチャー起業家と評される江副浩正。
本書を読み終えて、
江副氏はいろんな意味で非常に知的能力の高いギャンブラーだったんだなと思いました。
長所である勝つための分析力、着眼点、行動力、改善能力がフルで発揮されたからこそ、リクルートが誕生・成長し、
また、短所として刺激と欲望におぼれて自身を破滅させたのだな、と。
そして、もう1つ。
江副氏による株売却で一気に関係が冷めたにも関わらず、
㈱リクルートには今でも創業時の独特の社風がいきていることは奇跡だと思いました。